◉アルコールについて
アルコール飲料とは酒税法上、1%以上のエチルアルコールを含有する飲料のことを言います。
また、アルコール飲料(中でも赤ワイン)は、片頭痛の誘発・増悪因子のチラミンなどのアミンを含有します。
アルコール飲料以外のチラミン含有食品は、個人によって反応が異なるため、特に摂取の制限を指導する必要はない(日本神経学会・日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイドライン2013より)。
【エネルギー】
アルコール(エタノール)のカロリーは、厳密には7.1kcal/g(FAO/WHO合同特別専門委員会報告)とされていますが、エネルギー利用効率は60~70%であると推定されているため、5kcalと計算するのが妥当とされています。
摂取後、常時よりも熱の放散、酸素消費量ともに増加し、薬物代謝経路である肝臓でアセトアルデヒドに分解される過程でエネルギー必要量が増大し、30%は速やかに消費されます。
しかし、アルコールは食欲増進作用があり、過食が進み、内臓脂肪の蓄積の増進も報告されています。
【種類】
アルコール飲料は、醸造酒と蒸留酒、混成酒に大別することができます。
1. 醸造酒
醸造酒(Brewing Liquor)は、とは、果実や穀類を原料として発酵させたものを、そのままあるいはろ過して製品としたものです。糖質にエチルアルコールが含まれています。醸造酒は糖分と蛋白質も含有しているのでこれもカロリー計算にいれる必要があります。
特に、ビールは大量に飲めるので血糖値を上昇させ、インスリンを分泌させるため肥満の原因となります。350㎖缶の「恵比寿」「スーパードライ」「キリンラガー」で約11~12gの糖質が入っています。
原料のエキスを多く含むので味がまろやかです。
2. 蒸留酒
蒸留酒(Spirits)は、醸造酒を蒸留してアルコール度数を高くした酒類です。
蒸留するときに、糖質はなくなるのでの蒸留酒の糖質はゼロです。
エキス分が少ないので味が淡白である一方、独特の強い香気をもっています。
3. 混成酒(再製酒)
混成酒は、上記2種のうち何れかに糖類や果実、植物の根茎、集、香料など種々の材料を添加したアルコールのことです。
【摂取量】
厚生省が推進している21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)によると適度な飲酒量は1日平均純アルコールで20g程度です。
一方、アメリカのガイドラインでは、飲料は女性なら1日1杯(純アルコール換算で10g=グラス1杯のワイン、ビール)、男性なら1日2杯以下に抑えることが推奨され、イギリスでは、性別にかかわらずアルコール飲料は(ワイン換算で)1日2杯までに抑えるべきだとされています。
日本人は欧米人に比べてアルコール代謝関連酵素の活性に関して遺伝的背景が大きく異なり、アルコール飲料の健康被害が大きくなる可能性があるにもかかわらず、推奨量が2倍であることは理解に苦しみます。
【関連疾患】
アルコール飲料は、循環器疾患、がんなどの生活習慣病の発症及び死亡と関連することが数多くの疫学研究で指摘されています。
脳卒中のうち、脳梗塞ではJ字型の関連が観察されているが、脳出血ではこのようなある摂取量におけるリスク低下は観察されないようです。
〈認知症〉
WHO認知症予防ガイドライン
予防のための推奨事項
アルコール使用障害(飲み過ぎ)に対する介入
科学的根拠の強さ:中
〈動脈硬化〉
アルコール飲料が少量摂取による健康効果説は、フランス人の食生活から来ています。
動脈硬化による脳梗塞や心筋梗塞と相関性の高いバターなどの高脂肪食や高い喫煙率のフランスが、近隣諸国よりも心筋梗塞の死亡者が少ないことが知られており、「フレンチ・パラドックス(フランスの逆説)」と呼ばれていました。フランス人はワインの摂取量が多いため、これが健康に良い働きをしているためこのような現象が見られると考えられるようになってきました。その後、複数の研究でアルコール飲料は少量であれば動脈硬化を原因とした病気によって死亡する確率を減らす可能性があると報告されており、これが「アルコール飲料は少量であれば健康に良い」と言われるようになった所以です。
〈悪性新生物〉
がんに対しては上部消化管がんを中心にリスクの上昇が認められています。また、WHOの(International Agency for Research on Cancer:IARC)は、数多くの疫学研究等の結果に基づいて、「酒類」及び「酒類中のエタノール」を人に対して発がん性があるとされるGroup 1に分類し、飲酒と口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・女性乳房のがんのリスク上昇との間に因果関係があるとしています。総死亡率に対しては、多くの研究がJ字型の関連を認めています。
わが国におけるコホート研究では、総死亡では、21g/日以下の少量飲酒群で最もリスクが低いJ字型の関連がみられるとする報告がある一方、43g/日以上でのみリスクが高いとする報告や、飲酒量の増加に従ってほぼ単調にリスクが高くなるとする報告もあります。アルコール飲料はたとえ少量でもがん(特に乳がん)のリスクを上げる可能性は以前より報告されていました。女性の乳がんや結核、男性の口腔がんで少量からリスクが上昇しているのがわかります。
1日アルコール10gの場合、心筋梗塞や糖尿病のリスクが低いことと、乳がんや結核(そしてアルコールに関連した交通事故や外傷)のリスクが高いことが打ち消しあって、病気のリスクは変わらないという結果になっていると考えられます。
このように結論が一貫していないように見えるかというと、アルコール飲料は少量であれば動脈硬化による脳梗塞や心筋梗塞のリスクを下げるものの、がんに関しては少量でもリスクを高めるからです。
2018年8月23日に世界的権威のある医学雑誌『ランセット』で、以前は少量であれば健康に良いが過量になると悪影響があると考えられていたアルコール飲料が、「たとえ少量でも健康に悪い」という報告があります。
今回の研究はこの2つを組み合わせると健康への影響がどうなるのかを分析したものです。
『ランセット』誌に掲載された論文は、世界195か国で実施された592の研究を統合した、それこそ大規模研究です。心筋梗塞や乳がんを含む23個の健康指標へのアルコール飲料の影響を総合的に評価したものでした。
この論文に掲載された図では、1日1杯ではほとんどリスクが上昇しておらず、1日1杯以上になると飲酒量が増えるに従い、病気になるリスクが上昇しているように見えます。
縦軸は、生涯調整生存率(DALY)という指標を用いて評価しています。DALYとは、疾病や危険因子に起因する死亡と障害に対する負荷を比較できる形で、健康への影響を総合的に定量化するための指標です。
(出典:GBD 2016 Alcohol Collaborators2018)
論文によると、健康リスクを最小化する飲酒量に関して、最も信頼できる値は1日0杯であり、95%の確率で0~0.8杯/日の間に収まるという
結果でした。
近親者にがんになってしまった人がいる遺伝的に高リスクの人は、アルコール飲料の摂取量を最低限に抑えることをお薦めします。ランセットの論文で少量の飲酒でも病気のリスクが上がる原因は、がんだけでなく飲酒に伴う事故やケガも含まれています。(出典:GBD 2016 Alcohol Collaborators2018)
〈心筋梗塞〉
メタ・アナリシスによると、心筋梗塞の発症では少量飲酒者で最も低い、いわゆるJ字型の関連が認められています。
病気ごとで見てみると、心筋梗塞に関しては、少量の飲酒をしている人ほどリスクが低く(男性0.83杯/日、女性0.92杯/日の飲酒している人が最小リスク)、ある程度以上になるとリスクが高くなるのがわかります。
2018年4月『ランセット』に掲載された他の論文では、83個の研究を統合して解析したところ、アルコール換算で週100gまでであれば脳梗塞や心筋梗塞による死亡リスクは上がらないと報告されています。
注意が必要なのは、アルコール飲料で脳梗塞や心筋梗塞のリスクが下がっている(因果関係)のか、アルコール飲料を飲んでいる人が脳梗塞や心筋梗塞のリスクが低いだけなのか(相関関係)なのかはわかっていないということです。
遺伝的要因によってアルコール飲料が飲める人と飲めない人がいるし、アルコール飲料を飲むと具合が悪くなる人はもちろん飲酒量が少ない。もしアルコール耐性の遺伝子を持っている人ほど脳梗塞や心筋梗塞のリスクが低いのであれば、アルコール飲料を少量飲んでいる人ほどリスクが低くなるように見えてしまうことはありえることは過去の研究から指摘されています。
【相互作用】
薬を服用しているときにアルコール飲料を飲むと、薬効が強くなったり弱くなったりすることがあり、副作用も出やすくなることがあります。
また、ある種の薬はアルコールの代謝を抑える働きがあるので、お酒に酔ったときの症状が強くあらわれることもあります。
さらに、お薬もアルコールも主に肝臓で代謝されますので、肝臓に大きな負担がかかります。
睡眠薬や精神的な緊張を和らげるお薬などは、アルコール飲料と一緒に飲むと効果が非常に強くなります。薬とアルコール飲料を一緒に飲むのは避けましょう。
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